なぜ熟成なのか
ホップには、さまざまな成分が含まれています。キリンはこれまでもホップ成分の健康機能性に着目し、アルツハイマー病予防効果、発がん抑制効果、骨密度低下抑制効果などを解明してきました。そして今回、発見したのが「熟成させたホップ」の機能性です。ここでいう熟成とは、酸化を指します。ビール醸造では新鮮なホップを使うのが通例で、なるべく酸化しないように管理しますが、あえて熟成したホップに着目したのは次の理由からです。図1のように、新鮮なホップには「α酸」という苦味成分が含まれ、ビール醸造の過程で「イソα酸」に変化します。キリンは、このイソα酸に認知症を予防する効果があることや、肥満によって起こる認知機能低下を改善する効果があることを世界に先駆けて解明してきました。しかし、機能性は明らかになったものの、イソα酸は苦味が非常に強いため、飲料や食品の開発には課題がありました。
「苦味を抑え、かつ健康機能性をもつホップ成分を見つけ出せないだろうか」そう考えた研究チームが着目したのが熟成したホップでした。古くから、熟成して酸化したホップでつくったビールは苦味がまろやかになることが知られていました。そこで熟成したホップに含まれる成分を調べたところ、新鮮なホップにはない未知の苦味成分を発見したのです。この成分の機能性を探求したところ、褐色脂肪組織を活性化させ、体脂肪を低減させる効果があることがわかりました。イソα酸より苦くないこともわかり、新素材として量産化を目指す道が開けたのです。
図1 ホップ中の苦味成分と熟成によるメリット
新素材の量産を可能にした技術
しかし熟成ホップを素材として量産化するにはハードルがありました。従来の方法では、新鮮なホップを熟成させるためには常温(20℃)で約10カ月間放置しなければならず、膨大な時間が必要でした。そこで研究チームは、さまざまな熟成条件を繰り返し検討し、60℃で効率よく加熱する技術を開発。熟成期間を従来の約100分の1(数日間)に短縮することに成功したのです。そして、さまざまな飲料や食品に展開できるよう、熟成ホップを水で抽出してエキス化しました。こうして、苦味が少なく、かつ健康機能性を持つ新素材「熟成ホップ抽出物」の量産が可能になりました。
図2 量産により、飲料や食品への展開が可能に
「熟成ホップ」の働きで脂肪が燃焼
「熟成ホップ」の健康機能性はヒトを対象にした試験でも確認しています。実験では、20代から60代までの男女200人を2つのグループに分け、一方には熟成ホップ含有飲料を、一方にはプラセボ飲料を12週間、毎日1本(350mL)摂取。CTスキャンで内臓脂肪面積を測定し、体脂肪率も測ったところ、図3のように、熟成ホップ含有飲料を飲んだグループは内臓脂肪面積と体脂肪率が有意に低下していました。
図3 熟成ホップの体脂肪低減効果
図3-1:内臓脂肪のCTスキャン画像と内臓脂肪面積測定結果
図3-2:体脂肪率測定結果
熟成ホップの認知機能改善効果
さらに、熟成ホップには、認知機能の改善効果があることも明らかにしました。健常な中高齢者を2つのグループに分け、一方には熟成ホップを含むサプリメントを、一方にはプラセボサプリメントを12週間摂取させ、摂取前後の認知機能を比較する試験を行ったところ、摂取6週目の前頭葉機能検査で、記憶想起力が改善しました。そのほか、選択的注意力や気分状態(気分の落ち込みや疲労感、不安感、活気など)も改善することを明らかにしています。
図4 記憶想起力および選択的注意力の試験結果
熟成ホップの健康機能価値を世に
熟成ホップは、現在キリングループのさまざまな商品に用いられ、人々の健康に貢献しています。活用の幅をさらに広げるために立ち上げられたのが、キリンの社内ベンチャー企業であるINHOPです。熟成ホップを開発した研究者が自ら社長として起業し、熟成ホップを軸にさまざまな商品開発や情報発信活動を行っています。
キリングループは今後も一層、ホップの機能性探求に力を注ぎ、ホップの力で人々に貢献することを目指します。
- このページの情報は研究成果の掲載であり、商品の販売促進を目的とするものではありません。
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- 組織名、役職等は掲載当時のものです(2017年9月)