レポート
記事公開:2012年3月 / 更新:2021年12月

免疫細胞pDCを直接活性化する乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaを発見

  • 健康機能性素材探索・評価

ラクトコッカス・ラクティスは、主にチーズやヨーグルト製造に用いられる乳酸菌の一種です。キリンホールディングスと小岩井乳業(株)は、ラクトコッカス・ラクティスである乳酸菌Lactococcus lactis Plasma(*1)が、体内に侵入したウイルスを認識して活性化するプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)という免疫細胞を直接活性化することを発見しました。免疫力を高めてウイルスに対する抵抗性を強めるには、インターフェロンα(IFN-α)産生を増強することが重要です。これまでに行った研究により、乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaには、インターフェロンα産生能を高める作用や感染症予防効果などがあることを確認しており、作用機序も明らかになってきています。

  • *1乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaは、以下の研究で、125株の乳酸菌の中から発見しました。
乳酸菌Lactococcus lactis Plasma

藤原大介(ふじわら・だいすけ)

キリンホールディングス(株) R&D本部 キリン中央研究所 リサーチフェロー

人生100年時代といわれる今、楽しく生き生きと生活することが大切だと考えます。
Lactococcus lactis Plasmaは、ヒトの健康維持に必須である「免疫」に関与します。
自分も含め、皆がいつまでも元気に幸せに暮らしていくことに、L.ラクティス プラズマが役立てばよいと思っています。

ウイルス感染防御に重要な役割を果たすpDC

はるか昔から、世界各地ではさまざまな感染症が猛威をふるい、人々を苦しめてきました。キリンでは、感染症のリスクを「食」によって避けることができないかと考え、30年以上研究を続けてきました。

一般に「感染」といわれるものには、大腸菌O-157や結核のような細菌性のものと、インフルエンザのようなウイルス性のものが知られており、生体はそれぞれに防御システムを用意しています。下の図のように、人の体には、ウイルスが侵入すると、免疫細胞であるpDCが活性化し、インターフェロンを放出してウイルスを排除するという感染防御システムがあります。pDCは、ウイルスに反応して活性化し、インターフェロンα(IFN-α)を産生します。IFN-αは、NK細胞やT細胞、B細胞などさまざまな免疫細胞が働くシグナル物質です。研究チームは、乳酸菌でpDCを活性化することができれば、免疫システム全体を活性化することができ、効果的にウイルス感染を防御できるのではないかと考えました。

「細菌はpDCを直接活性化できない」という定説に、あきらめず挑戦

2009年に「細菌はpDCを直接活性化できない」という研究論文(*2)が発表されたことから、細菌の一つである乳酸菌も同様に、pDCの活性化は不可能だという説が一般的になった。しかし、免疫賦活機能や腸内環境改善など数々の健康機能が知られる乳酸菌の力への期待から、研究チームはこの定説に挑戦しました。

マウス由来のpDCを用いて、31菌種125株にわたる乳酸菌を接触させ、IFN-αが産生されるかを調べたところ、やはり、ほとんどの乳酸菌は無反応でした。しかし、ごく少数ながらも、高い活性を示す乳酸菌が見つかったのです。主にチーズ製造に使われるラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)に属する乳酸菌です。研究チームは、この乳酸菌を乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaと名付け、さらなる機能解明に取り組みました。

  • *2Human plasmacytoid dendritic cells are unresponsive to bacterial stimulation and require a novel type of cooperation with myeloid dendritic cells for maturation. Blood, 2009,113:4232-4239.

市販ヨーグルトの乳酸菌との比較

国内で市販されているヨーグルト7製品から分離した乳酸菌について、pDCの活性化が見られるかを同様の方法で調べました。その結果が下のグラフです。これらの乳酸菌では、乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaのような高いIFN-α産生を示すものは見つかりませんでした。IFN-αは、インターフェロンの中でもウイルス感染防御で中心的な役割を果たすといわれています。乳酸菌Lactococcus lactis PlasmaはpDCの活性化により、IFN-α産生を強く誘導することが分かりました。

乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaにより活性化したpDCの姿

pDCが活性化する様子を観察すると、乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaと他の乳酸菌との違いがよく分かります。樹状細胞という名前のとおり、pDCが活性化すると、写真の矢印で示した部分のように、樹状の突起が発生します。

鍵は乳酸菌Lactococcus lactis PlasmaのDNA

Lactococcus lactis Plasmaが一般的な乳酸菌にない作用を持つ秘密はどこにあるのでしょうか。pDCの細胞内にはウイルスを認識する受容体があり、乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaも、その受容体に認識されると考えられます。そこで、受容体を破壊したpDCで乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaによる活性化能を確認し、TLR9という受容体が乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaを認識することを突き止めました。

TLR9は、特殊なDNAを認識することが知られています。そこで、乳酸菌Lactococcus lactis PlasmaのDNAがpDCを活性化させているのではないかと考え、次の実験を行いました。乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaから抽出したDNAをpDCに添加したところ、下のグラフのとおり、大量のIFN-αの産生が確認されました。この2つの実験から、乳酸菌Lactococcus lactis PlasmaのDNAがpDCの受容体TLR9に認識されることでpDCを活性化し、IFN-α産生を誘導していることが示唆されました。DNAが認識されるため、Lactococcus lactis Plasmaは、菌が生きたままでなくても小腸に届くだけで効果を発揮すると考えられます。

pDCのような樹状細胞には、IFN-αを誘導する受容体として、TLR7とTLR9があります。それぞれが発現していないpDCを調製し、乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaによる活性化(IFN-α産生量)の違いを比較しました。TLR9のないpDCではIFN-αの産生が認められないことから、pDCのTLR9という受容体がこの乳酸菌を認識し、IFN-αを産生させていることが示唆されました。
pDCの受容体TLR9は、ウイルスや細菌が持つ非メチル化CpG DNAに特異的に結合することが知られています。実験では、乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaと市販ヨーグルトの乳酸菌のDNAとRNAを調製し、量を変えて、pDC活性化能の変化を調べました。その結果、これらの乳酸菌のDNAがpDCを活性化することと、乳酸菌Lactococcus lactis PlasmaのDNAのpDC活性化能が非常に高いことが示唆されました。市販ヨーグルトの乳酸菌は、菌体のままではpDCに認識されませんが、乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaは菌体のままでpDCのTLR9に認識され、そのDNAによりIFN-αの産生を促すと考えられます。

乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaは、pDCに直接作用する

従来から、免疫増強作用を示唆する乳酸菌が報告されていますが、乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaとの違いは、反応プロセスをみても明らかです。乳酸菌の中には、細菌など細胞を殺傷するナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性を上げたり、そこから間接的に作用してIFN-α産生を誘導するものがあります。しかし、乳酸菌Lactococcus lactis Plasmaは、免疫の司令塔であるpDC直接作用します。これにより、免疫細胞全体を活性化することができるのです。

Lactococcus lactis Plasmaの感染症予防効果

Lactococcus lactis Plasmaは、実際に感染症を予防することはできるのでしょうか。成人や小児にLactococcus lactis Plasmaの入った飲料や食品を摂取してもらい、感染症への予防効果や症状緩和効果を調べました。その結果、風邪やインフルエンザへの罹患率が低下することに加え、罹患した場合の自覚症状も軽減することがわかりました。さらに、マレーシアのマラヤ大学との共同研究では、マレーシア在住の健常人対象に試験を行い、デング熱の症状緩和に効果があることを見出しました。

マレーシアにおけるデング熱の試験結果

マレーシアのクアラルンプール近郊のデング熱高発生地域に居住するマレーシア国籍を有する健常成人約100名を対象に、「Lactococcus lactis Plasma(約1,000億個)」を含むタブレット、あるいは含まないタブレットを8週間摂取してもらい、臨床症状等を測定しました。その結果、「Lactococcus lactis Plasma」の投与によりデング熱特有の臨床症状である「頭痛」、「関節痛」、「目の奥の痛み」について症状の累積発生日数を有意に減少させました。

肌や運動への効果もーさまざまな可能性を秘めたLactococcus lactis Plasma

Lactococcus lactis Plasmaは、感染症だけでなく、肌フローラや疲労感にも効果があることがわかってきています。今後も研究を進め、感染症をはじめ、食を通じて人々の健康に貢献することを目指します。

  • このページの情報は研究成果の掲載であり、商品の販売促進を目的とするものではありません。
  • 組織名は掲載当時のものです(2012年3月)

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  • Jounai K, Ikado K, Sugimura T, Ano Y, Braun J, Fujiwara D (2012) Spherical lactic acid bacteria activate plasmacytoid dendritic cell immunomodulatory function via TLR9-dependent crosstalk with myeloid dendritic cell. Plos One in press.

学会発表

  • 「Identification of lactic acid bacteria that directly stimulate plasmacytoid dendritic cell to produce IFN-α」第59回日本ウイルス学会学術集会 2011年9月11日
  • Lactococcus lactis subsp.lactis JCM5805 is a potent stimulator of plasmacytoid dendritic cell via activation of TLR9/MyD88」第59回日本ウイルス学会学術集会 2011年9月11日
  • 「pDC直接活性化能を有するLactococcus lactis JCM5805(プラズマ乳酸菌)のマウスにおける効果」2012年度日本農芸化学会大会 2012年3月22日~26日
  • Lactococcus lactis JCM5805(プラズマ乳酸菌)のヒトpDC活性に及ぼす影響の検討」2012年度日本農芸化学会大会 2012年3月22日~26日

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