乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110の発見
免疫細胞の濃度バランスとアレルギーの関係
アレルギーの反応が起こることと、外から入った病原菌などの異物を除去する白血球の働きには、密接な関係があります。白血球は働きや形などからさまざまな細胞に分類されますが、その中にTh1細胞、Th2細胞というものがあります。この2種類の細胞はお互いにバランスを保ちながら、免疫を制御する働きをしています。
アレルギー反応が起きていると、Th2細胞と関連が深いIgE抗体という物質の血中濃度が濃くなっていることがわかっています。IgEの濃度が高まると、花粉やダニなどのアレルゲンに接触したとき、くしゃみなどの様々なアレルギー反応が誘発されます。アレルギーを改善するには、Th2細胞に傾いた免疫細胞のバランスを、Th1細胞とのバランスがとれている状態にする必要があると考えられます。
乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110の発見
昔から、ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌は、体質を改善し、健康を維持する効果が高いとされてきました。乳酸菌はアレルギーにも良い効果をもたらすのではないかと考え、昭和女子大学大学院生活機構研究科と共同で、アレルギー状態のリンパ球(白血球の一種)と様々な乳酸菌を共存させて、Th1サイトカインとTh2サイトカインを誘導する活性を比較しました。
※サイトカイン…特定の細胞に情報を伝えるタンパク質
その結果、数ある乳酸菌の中でも、小岩井乳業が所有する乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110には、Th1サイトカインを誘導して高めると同時に、Th2サイトカインを抑制する働きが高いことを発見しました。
Th1/Th2バランスへの影響
アレルギー状態のモデルに、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110を1mg毎日摂取させ、サイトカイン産生能を調べる実験を行いました。その結果、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110を与えた群のリンパ球のほうがTh1サイトカインの産生量が高いことがわかりました。すなわち、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110を摂取することによって、Th2細胞に傾いた免疫細胞のバランスを、Th1細胞とのバランスがとれている状態に改善するはたらきがあることが示唆されました。
また、このモデルの脾臓リンパ球のサイトカイン産生能を調べたところ、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110を与えた群のリンパ球のほうがTh1サイトカインの産生量が高いことがわかりました。すなわち、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110を摂取することによって、Th2細胞に傾いた免疫細胞のバランスを、Th1細胞とのバランスがとれている状態に改善するはたらきがあることが示唆されました。
乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110のアレルギー症状への影響
花粉症の自覚症状への影響
20~50代の花粉症の男女138名を、「乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110」100mgを含む食品を食べる群(KW3110群)と、含まない食品を食べる群(プラセボ群)に分け、12週間摂取してもらい、花粉症に関係する自覚症状を比較しました。プラセボ群に比べ、KW3110群では12週間後の自覚症状が軽減していることがわかりました。
出典: Allergy and Asthma proceedings. 2009;30(4):397–405
試験方法:千葉大学医学部米倉医師らのグループにより、20-50代の花粉症の男女138名を、「乳酸菌L.パラカゼイKW3110」100mgを含む食品を食べる方と、対照の乳酸菌を含まない食品を食べる方の2群に分け、12週間摂取させ、花粉症に関係する自覚症状を比較した。
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アトピー性皮膚炎の自覚症状への影響
アトピー性皮膚炎のモデルに10mgの乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110を58日間摂取させ、3週間後から1週間毎にアレルゲンに接触した際のアトピー性皮膚炎様症状を評価しました。KW3110摂取群では非摂取群に比べ、症状の緩和が見られました。
試験方法:アトピー性皮膚炎のモデルに10mgの乳酸菌を含む餌を58日間投与し、3週間後から1週間毎にアレルゲンを塗布し、アトピー性皮膚炎様症状を評価しました。
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乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110の作用メカニズム(細胞レベルでの研究)
以上の実験から、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110がTh1/Th2バランスを修正し、アレルギー症状を緩和するはたらきをもつことが確認できました。そこで次に、体内のアレルギー因子物質に着目して、細胞や体の中のメカニズムについて解析しました。
アレルギーにはIL-4という生体内のタンパク質が関与し、IL-4の産生を抑制するにはIL-12を産生させることが重要であることが示されています。IL-12はマクロファージと呼ばれる細胞が乳酸菌を取り込むことで産生を誘導することがわかっています。そこで、様々な乳酸菌を用いて、マクロファージ細胞への取り込み率とIL-12誘導活性の関係を調べました。乳酸菌株によって、マクロファージへの取り込み率は異なっており、IL-12産生誘導能との間に相関関係があることがわかりました。
乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110の作用メカニズム(生体内での研究)
乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110を与えたモデルの小腸リンパ組織(パイエル板、腸管膜リンパ節)において、IL-12産生が誘導されるかどうかを遺伝子の発現量で確認しました。乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110を与えたモデルでは、対照の蒸留水を与えたモデルに比べて、パイエル板でも腸管膜リンパ節でもIL-12p40遺伝子の発現が上昇しました。
さらに、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110を与えたモデルの血中IL-12p40濃度の変化を測定したところ、蒸留水を与えたモデルに比べて、血中のIL-12p40濃度が有意に上昇していました。
以上の結果から、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110を経口摂取することにより、腸管でIL-12遺伝子の発現が誘導され、血中のIL-12濃度が上昇する作用メカニズムが明らかとなりました。
腸の働きを整える「プロバイオティクス」効果
乳酸菌などの微生物の中には、生きて腸の中に届くと悪玉菌や善玉菌のような腸内細菌のバランスを整え、健康に役立つ「プロバイオティクス」効果があるものが知られています。しかし、すべての乳酸菌が生きて腸に到達できるわけではありません。人や動物の体には、口から入った細菌が勝手に増殖しないよう、胃酸や胆汁酸のようなバリアがあるからです。
そこで、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110が生きて腸に到達できるかを、胃内の環境に合わせてpH3に調整した培地での乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110の生菌率と胆汁酸を含む培地での増殖能で調べました。その結果、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110は、胃酸や胆汁酸に耐性があることが確認できました。
しかし、胃酸や胆汁酸に耐えて腸に届いても、そこに留まらなければ増えることはできません。そこで、ヒト腸管由来の細胞に接着する能力について調べたところ、パラカゼイ種の乳酸菌の中でも、乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110が高い接着性で腸管に付着できる可能性が確認でき、プロバイオティクス乳酸菌である可能性が示唆されました。
その他の健康機能性の探求
乳酸菌Lactobacillus paracasei KW3110は、アレルギー症状だけでなく、目の疲労感軽減などにも効果があることがわかってきています。今後もさらなる健康機能性を探求していきます。
- 組織名は掲載当時のものです(2009年12月)
- このページの情報は研究成果の掲載であり、商品の販売促進を目的とするものではありません。
- もともと飲まない人に飲酒を勧めるものではありません。
- 飲酒にあたっては、適量飲酒を心がけてください。