ビールのおいしさをより高められるのがビールサーバーの魅力
パッケージング技術研究所の中に、ビールサーバーに特化したグループが結成されたのは2015年のこと。以前から行われていた家庭用サーバーの研究に加え、新たに業務用サーバー開発のニーズが社内で高まったことから、さまざまな知識と経験をもつ研究員が集結しました。「メンバーは現在9人。工場の生産ライン、缶やペットボトルなどの容器、ビールサーバーの各機構など、それぞれが得意分野をもっているので、協力しながらノウハウを積み上げていけるのが強みです」と話すのは、グループリーダーの西部匡史主任研究員。
「『Tap Marché(タップ・マルシェ)』および『KIRIN Home Tap(キリン ホームタップ)』(ともに後述)では、サーバーだけでなくペットボトルも新規開発し、ペットボトルにビールを充填するラインを工場に新設する支援も担当しました。上流から下流まで一貫して携われるのでやりがいが大きいです。ビールサーバー用容器として初めてペットボトルを採用するにあたり、経時的なガス抜けや酸化劣化を防止するために容器内面へコーティング(自社特許技術)を施したり、サーバーとの装着性を高めるために広口ボトルを新規に設計したりするなど、新たな技術にチャレンジできたことも大きな達成感につながりました」ビールは、つくりたてが一番おいしいのですが、容器に入れてお客様に届くまでにはどうしても時間が経ってしまいます。しかし、そのマイナスをプラスに変えられるのがビールサーバーだと西部主任研究員は言います。「ビールサーバーがあれば、お客様の手元でビールをおいしくしたり、好みに合わせて注ぐ楽しさを提供できたりします。ビール本来のおいしさを、より高めてお届けできるのがサーバー開発の醍醐味なのです」
つくりたてのビールを工場から宅配する「KIRIN Home Tap(キリン ホームタップ)」
ここで紹介する2つのサーバーも、小型でおしゃれ、かつ扱いやすく高機能。ビール容器はステンレス樽ではなくペットボトルを使用し、従来の樽に比べると、小容量で新鮮さを保つことができます。まずはこちら。白くて丸みを帯びた、おしゃれなデザインが目を引く「KIRIN Home Tap(キリン ホームタップ)」の専用サーバーです。担当したのは、2013年入社の若手、池庭愛研究員です。「商品開発志望で入社したので、ビールサーバーの担当になり最初は驚きました。でも、ビールを工場から宅配し、自宅でサーバーを使って飲めるようにするなんて面白い!未知の世界に挑戦するチャンスを与えてもらい、ワクワクしながら開発に臨みました」
とはいえ、現在の形になるまでには試行錯誤の連続でした。テスト版のサーバーをお客様に使っていただきながら、感想や意見を募り、改良を重ねます。「最もこだわったのが、きめ細かいクリーミーな泡を出すための設計です。自宅で使用するものですから、お客様の使い方もさまざま。誰でも簡単に、お店の生ビールを超えるくらいにおいしく、きめ細かい泡を乗せたビールを注ぎたい。サーバーを製造していただくメーカーさんの知見もお借りしながら何度も何度もやりとりし、徹底的に追求しました」
目指しているものが形になるって、面白い!楽しい!
ほかにも、テスト版と現行版を並べて比較すると、実にさまざまな改良が施されていることがわかります。外観は同じでも、中の機構が大きく違うのです。「例えば、ふたの開け方。テスト版では、頭部の丸い部分をねじった状態で持ち上げる方式でしたが、分かりにくいとのご意見があり、ポンと押すだけで開くようにしました。炭酸ガスのカートリッジもできるだけ小さくし、取り付けや取り外しを簡単にしています。開発時間の制約がある中で、どうすればより使いやすく、イメージどおりのものができるのか、工夫に工夫を重ねる毎日でした」こうして完成させた「KIRIN Home Tap(キリン ホームタップ)」は、毎月、会員募集をするたびに即日完売するほどの反響を呼んでいます。「商品をつくるんだ!と意気込んで入社しましたが、いまは、目指すものが形になるのが面白く、ビールサーバー開発にハマっています(笑)。機械にも強くなり、いろんな機器を見るたびに、中はどうなっているんだろうと分解してみたくなりますね。これからも、もっと機械や電気のしくみを勉強して、新しい提案やものづくりに挑戦したいです」
1台で4種類のビールを提供できる「Tap Marché(タップ・マルシェ)」
もう一つの新型サーバーが、業務用の「Tap Marché(タップ・マルシェ)」です。1台に4つのタップ(注ぎ口)が付いています。これはつまり、1台で4種類のビールを注げるということです。コンパクトでスタイリッシュなデザインもさることながら、これまでにない機能性を実現させたことで、国内外から大きな注目を集めています。
開発の発端は、本社で持ち上がった新しい取り組みの構想でした。「マルシェ(市場)のように、多種類のクラフトビールから選ぶ楽しさを提供したい。1台で4種類を提供できる小型サーバーを開発できないか」というものです。なにしろ、世の中に前例がありません。「1台で4種類……。どのような形にして、どのように配置すれば実現できるのだろう」。担当した豊澤智弘研究員の試行錯誤が始まりました。
飲食店とサーバーの関係性を変えた
3リットルの小型ペットボトル容器をどう並べるか。横に4つ、縦に4つ、縦横に2つずつ……。いろいろなパターンを考えては、ダンボールで模型をつくる日々。「店頭に置きやすいよう、大きさはもちろんのこと、注ぎ口の間隔も細かく設計しなくてはなりません。最終的に、ペットボトルを手前から奥に並べる配置を考え出しました。配置が決まると、ペットボトルの傾きの角度、ペットボトルからビールを注出する方法、炭酸ガスの供給方法などを細かく検討していきました。大変でしたが、誰もやったことのないものに挑戦するのはすごくやりがいがあります。グループのメンバーそれぞれの技術力や経験も、大きな力になりました」と豊澤研究員は言います。ビールを注出するためのチューブの太さや長さも1ミリ単位で調整。さらに、ビールサーバーの本体に文字や絵を描けるよう、外観も工夫しました。お店の看板のように、ビールの名前やイラストなどを書き込んで、お客様に見える位置に設置する飲食店も次々に現れています。「飲食店とお客様をつなぐ、コミュニケーションツールの役割を果たすビールサーバーを世に出すことができました。予想以上に望まれるものをつくることができた手応えを、ひしひしと感じています」
よりおいしく、より使いやすいビールサーバーを
グループリーダーの西部主任研究員によると、キリンが培ってきたビールサーバー技術には、「冷やす技術」「注ぐ技術」「操作性(使いやすさ)に関する技術」の3つがあります。そのノウハウと、研究者たちの創意工夫やアイデアを総動員させてつくりあげた2つのサーバーは、これからどんどん各地に広がっていくでしょう。
「お店の方や、お客様が困っていることは何だろう。どうすれば、ビールをもっとおいしく注げて、使いやすくなるだろう。そのことを常に考えながら仕事をしています。ビールサーバーグループのいいところは、自分の担当にかかわらず、誰かが困っていたら自然に声をかけ合い、助け合う風土があることです。だからこそモチベーションを高め、成果を出すことができるのだと思います」豊澤研究員も池庭研究員も、このように笑顔で語ってくれました。
お客様が楽しんでいる姿を見ることが喜びであり、やりがいでもある。3人は、そう口を揃えます。ビールのおいしさ、楽しさを生み出すビールサーバーの世界に、新発想でイノベーションを起こし続けるキリンの研究者たち。新たな挑戦は、今日も続いています。
- このページの情報は研究成果の掲載であり、商品の販売促進を目的とするものではありません。
- もともと飲まない人に飲酒を勧めるものではありません。
- 飲酒にあたっては、適量飲酒を心がけてください。
- 組織名、役職等は掲載当時のものです(2017年8月)