「三度注ぎ」と「泡なし」のビールで成分を比較
ビール大国であるドイツやチェコには、ビールを泡立てながら時間をかけてグラスに注ぐ伝統文化があります。しかし、この注ぎ方をするとなぜおいしくなるのかを研究した例はほとんどありません。2012年になって、チェコのブドバー社が「3回に分けてビールを注ぐと炭酸ガスが低減し、苦味の質が良好になり、香味が変化する」との研究結果を発表しましたが(*)、これは人の感覚を用いた官能評価の結果であり、化学的に成分を分析したものではありませんでした。
そこで、新たな挑戦を試みたのがキリンの研究者です。「三度注ぎ」には、ホップが華やかに香り立ち、まろやかなうま味を引き出す効果があるといわれることから、ホップに由来する香り成分と苦味成分の変化を分析することを思いつきました。そして、「三度注ぎ」のビールと「泡なし(一度注ぎ)」のビールを用意し、ビール6℃、室温21℃の条件の下、「注いだ直後」「5分後」「15分後」と飲み進めていく想定で実験を行いました。
- *関連論文:Kosin P.et.al., Journal of American Society of Brewing Chemist 70(2):103-108, 2012
2種類の注ぎ方で成分変化を比較
香り成分の活性化と「泡のふた」効果
まず、香り成分を分析しました。ビールに含まれる香り成分は何百種類もありますが、その中から、揮発しやすく検出しやすいミルセン(松や青草のような香り)、リナロール(柑橘や沈丁花のような香り)の二つに注目しました。図1が実験結果です。
注いだ直後は、「三度注ぎ」の方が香り成分が少なくなっています。勢いよく泡を立てて注ぐことで香り成分が揮発して活性化し、グラスの周りに香りがふわっと立ち上がったことがわかります。そして、5分後、15分後と時間が経過するにつれ、「三度注ぎ」の方が香り成分が多く残ります。しっかりと立てた泡がふたの役割をして、香りを長く保つからだと考えられます。
苦味成分と味の変化
次に、苦味成分の分析です。ビールの苦味成分には2種類があります。一つは、ビールの苦味の本体であるイソα酸、もう一つは、苦味に柔らかさや奥行きを与える後熟成分です。イソα酸はビールの泡になじみやすく、後熟成分は液体になじみやすい性質を持っています。液体中の2種類の成分比率を調べると、図2のように、「泡なし」と「三度注ぎ」で大きく異なることがわかりました。
「泡なし」では、時間が経っても比率がほぼ一定ですが、「三度注ぎ」では、注いだ直後は苦味成分が少なく、時間の経過とともに苦味が強くなっています。その理由を表したものが図3です。苦味成分(イソα酸)は泡となじみやすいため、注いだ直後は、苦味成分の多くは泡の中に含まれます。飲み進んで泡と液体の量が減るにつれ、苦味成分と後熟成分が混ざり合い、味が変化していくわけです。
だから、「三度注ぎ」のビールは飲み飽きない
上記の結果から、「三度注ぎ」をすると香りが長く保てるだけでなく、飲みはじめたときと飲み終わるときとで味が異なり、飲みながら味の変化を楽しめることがわかりました。つまり、図4のように、1杯目を飲み終わって2杯目に移ったときも同様に味の変化を感じることができます。こうしたことから、「三度注ぎ」は、まさにビールの醍醐味を味わえる注ぎ方だといえるでしょう。
自宅でもできる「三度注ぎ」
ここでご紹介した「三度注ぎ」のビールは、自宅でも手軽に試すことができます。下の手順を参考に、ぜひ挑戦してみてください。キリンのビアレストラン「キリンシティ」各店舗でも、樽生ビールのサーバーから3回に分けて注いだ「ご馳走ビール」をお楽しみいただけます。
「三度注ぎ」の手順
1回目
2回目
3回目
完成!
- このページの情報は研究成果の掲載であり、商品の販売促進を目的とするものではありません。
- もともと飲まない人に飲酒を勧めるものではありません。
- 飲酒にあたっては、適量飲酒を心がけてください。
- 組織名、役職等は掲載当時のものです(2014年7月)