レスベラトロールは、ポリフェノールの一種。多彩な健康長寿効果に注目
レスベラトロールは、ブドウの茎や葉、果皮などに含まれる成分で、ポリフェノールの一種です。下記の図1のように、さまざまな健康長寿効果が報告されていますが、とくに、老化を抑制する“長寿遺伝子”と呼ばれるサーチュイン遺伝子を活性化させることで、一躍、知られるようになりました。
肥満との関連においても、2010年、ネズミキツネザル(霊長類)にレスベラトロール入りのエサを与えると体重が減少したとの研究結果が発表されたほか、「赤ワインを1日1杯飲んでいる人は体重増加・肥満のリスクが下がる」という疫学データも報告されています(※1)。
肥満のなかでも、生活習慣病に大きく関係するのが内臓脂肪型肥満、つまり、内臓のまわりに脂肪が蓄積することによる肥満です。内臓脂肪の蓄積を抑えるにはカロリー制限が有効ですが、赤ワインに含まれるレスベラトロールにも同じようなはたらきがあるのではないか。こうした考えから、今回の研究が始まりました。
- (※1)2010年、アメリカ。39歳以上の米国女性1万9220人を13年間追跡調査したもの
出典:Arch. Intern. Med. 2010;170:435
図1 レスベラトロールの主な健康長寿効果
レスベラトロールを摂取すると、内臓脂肪の蓄積が抑制された
実験では、内臓についた脂肪をより視覚的に評価するため、内臓が透けて見える透明なゼブラフィッシュを用いました。体長3センチほどの小魚ですが、主要な臓器や組織、構造などがヒトとよく似ており、ゲノム間の類似性も高いのです(※2)。
ゼブラフィッシュを過食により肥満させ、その際、レスベラトロールをエサに混ぜて自由に食べさせて、5週間飼育したところ、図2のとおり、レスベラトロール入りのエサを食べたゼブラフィッシュは、内臓脂肪と血中中性脂肪の増加が抑制されていました。それにより、レスベラトロールには内臓脂肪の蓄積を抑制する効果があることを確認しました。
- (※2)三重大学大学院医学系研究科薬理ゲノミクス分野 田中利男研究室より
図2 ゼブラフィッシュのエサにレスベラトロールを加えると…
カロリー制限との共通点を探る
なぜ、レスベラトロールを摂取すると内臓脂肪の蓄積が抑制されるのでしょうか。そのメカニズムを明らかにするため、内臓脂肪の細胞の状態を遺伝子レベルで解析しました。このとき参照したのが、三重大学が保有していた、カロリー制限をしたゼブラフィッシュの内臓脂肪細胞のデータです。カロリー制限をすると、肥満は軽減されます。また、カロリー制限をすることで長寿遺伝子サーチュインが活性化することも明らかになっています。こうしたことから、レスベラトロールとカロリー制限には、遺伝子レベルで共通したはたらきがあるのではないかと考えたのです。
肥満にかかわる酵素EP300の活性化が、レスベラトロールによって正常化
レスベラトロールを摂取した場合の内臓脂肪と、カロリー制限をした場合の内臓脂肪の遺伝子を照らし合わせると、同じように挙動する遺伝子が複数見つかりました。さらにそれらの遺伝子をコントロールする因子を調べたところ、ヒトとゼブラフィッシュに共通して肥満において異常化し、レスベラトロールとカロリー制限によって正常に戻るタンパク質群を発見しました。なかでも重要なのが、肥満に伴って脂肪細胞で活性化するEP300(ヒストンアセチル基転移酵素)というタンパク質です。
図3のように、EP300は、肥満の脂肪組織において活性化しています。しかし、レスベラトロールを摂取すると、カロリー制限をしたときと同じようにEP300の活性化が抑えられて正常化し、内臓脂肪の蓄積抑制と減少につながると考えられます。
図3 今回の研究で示唆されたEP300の活性化と抑制
EP300は、ヒトの細胞にも存在します。そのため、ゼブラフィッシュと同じような内臓脂肪蓄積抑制メカニズムを有していることが考えられます。ヒトに関しては、さらなる検証が必要ですが、今回の研究により、EP300が肥満の脂肪組織において活性化し、レスベラトロールにより抑制されることを解明できたことは世界初のことであり、大きな成果です。今後も、赤ワインの健康機能性に関する研究をより一層、発展させていきます。
- 組織名、役職等は掲載当時のものです(2016年3月)