レポート

ホップやユーカリの香り成分と、冷涼感との関係を解明!

  • 健康機能性素材探索・評価
  • 香味設計

香り成分「β(ベータ)-ユーデスモール」が、冷涼感センサーに作用することを発見しました。

キリンの健康プロジェクトは、協和発酵キリン(株)と共同で、ホップやユーカリに含まれる「β(ベータ)-ユーデスモール」という香り成分が、冷涼感を感じさせるセンサーの役割をする細胞膜のタンパク質であるTRPA1(Transient Receptor Potential Ankyrin 1)に作用することを発見しました。この研究は、日本農芸化学会2012年度大会にて高く評価され、約2400題の一般講演の中から30題が選定されるトピックス賞に選ばれました。

ホップの冷涼感やスパイシー感に着目

ビール醸造に使用するホップには、味や香りにさまざまな特徴を持つ複数の品種があります。その中で、ヘルスブルッカー種は、冷涼感やスパイシー感と表現される香味をもたらすことが知られています。この特徴は、ビール系飲料の香味設計において重要な役割を果たしていますが、冷涼感やスパイシー感がなぜ感じられるのかについては、明らかになっていませんでした。そこで今回、この特徴をもたらす化合物やメカニズムの詳細を明らかにすることを目的とし、研究に着手しました。

冷涼感を感じるセンサーのしくみ

私たちの体には、温度を感じるさまざまなセンサー(受容体)があります。冷たさ(冷涼感)を感じるセンサーの一つとして、感覚神経の末端にあるTRPA1が知られています。TRPA1は、下の図のような形をしており、17℃以下の低温になると活性化してゲートが開きます。すると、細胞の外から中へカルシウムイオン(Ca2+)が流れ込みます。その結果、感覚神経に活動電位が発生し、「冷たい」という感覚が起こります。また、TRPA1は、ワサビやシナモンに含まれる成分などによる「スパイシーな感覚」の受容にも関与することが分かっています。

ヘルスブルッカー種ホップやユーカリに含まれる「β-ユーデスモール」

β-ユーデスモールは、ヘルスブルッカー種ホップやユーカリなどの精油に含まれ、ヒノキのような爽やかな香りがする成分で、以前には抗ウイルス作用や抗炎症作用などが報告されています。本研究では、ホップの官能評価において「スパイシー」と表現される画分にβ-ユーデスモールが含まれることに着目し、β-ユーデスモールによってTRPA1が活性化するか、さらにはβ-ユーデスモールによって冷涼感がもたらされるかどうかを調べました。

β-ユーデスモールの構造

β-ユーデスモールがTRPA1を活性化するか?

まず行ったのは、細胞内カルシウム濃度の測定試験です。前述のとおり、TRPA1が活性化すると、細胞外からカルシウムイオン(Ca2+)が流入します。つまり、TRPA1が活性化すると、細胞内のカルシウム濃度が高くなります。実験では、ヒトTRPA1を発現させた動物細胞に、β-ユーデスモールを添加しました。その結果、β-ユーデスモールの濃度を上げるにつれて、細胞内カルシウム濃度が上昇しました。ちなみに、ホップの精油に含まれる他の成分でも同様の試験を行いましたが、試験をした濃度の範囲内では、β-ユーデスモールのような高い活性は認められませんでした。

また、TRPA1が活性化すると、カルシウムイオン流入に伴い、細胞膜に電流が発生します。これを膜電流と呼びます。そこで次の試験として、ヒトTRPA1を発現させた細胞を用いて、β-ユーデスモールによる膜電流の変化を調べました。その結果が下のグラフです。添加したβ-ユーデスモールの濃度が高いほど、多くの膜電流が観察されました。以上の2つの試験(細胞内カルシウム濃度の測定、膜電流の測定)により、β-ユーデスモールがTRPA1を活性化することを初めて明らかにしました。

パッチクランプ法により、β-ユーデスモールを添加した場合と、コントロール(比較対照)として、0.3%のDMSO(ジメチルスルフォオキシド:試薬などを溶かす一般的な試験用溶媒)を添加した場合の膜電流を測定しました。

冷涼感を感じるか、人による官能評価

最後に、β-ユーデスモールが冷涼感をもたらすかどうか、ヒトによる官能評価を行いました。試験について十分な説明をした上で、被験者23名に、中身を分からないようにした3種類のサンプル(水、β-ユーデスモール10ppb、50ppb)を飲んでいただき、別途用意した基準となる水と比較して「冷たさ」がどの程度感じられるかを数字で示していたただきました。すると、下のグラフのとおり、β-ユーデスモールの濃度が高いほど冷涼感が増すことが分かりました。

「からだ想い茶 すぅーっと茶」に研究成果を活用

ヘルスブルッカー種ホップで得られた研究成果により、β−ユーデスモールが冷涼感をもたらすことが明らかになりました。この研究成果を活用して、キリンビバレッジ(株)では、のど飴などに多く使われるユーカリ成分とカリン果汁を加えた無糖の健康ブレンド紅茶「からだ想い茶 すぅーっと茶」を開発しました。名前のとおり、すぅーっとした清涼感が広がるお茶です。使用したユーカリ成分は、キリンの健康プロジェクトが独自開発した、β‐ユーデスモールを多く含みのどの奥にまで冷涼感が届くオリジナルの「ユーカリエキス」を配合しました。

キリングループは、いつもお客様の近くで様々な「絆」を育み、今後も「食と健康」の新たなよろこびを提案していきます。

  • 「からだ想い茶 すぅーっと茶」は販売終了しました。

学会発表

  • 「β-ユーデスモールによる冷受容チャネルの活性化」2012年度日本農芸化学会大会 2012年3月22日~26日

関連リンク

  • 組織名は掲載当時のものです(2012年3月)